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「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード16 「痛いとこないですか?」 [ある女性の告白]

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「痛いとこないですか?」

お坊さんが着ていそうな作務衣を身に着けた男の人と女の人が立っている。
私はいつもの場所で催事用のクレープのワゴンを組み立てながらちらちら盗み見をする
何だろう?

どんな商品を売っているのか、ここからは死角になっていてよく見えない。
ただ分かる事は初めて出会う業者だと言う事、昨日まで隣のブースはお馴染みのアジアの雑貨を扱う業者だった。

そういえば昨日までの日程だったんだ。
まあいいや、いずれ分かるだろう。
私は我に帰り販売の準備をしながらいつものようにレジの女の子達と屈託のない会話を交わしながら笑い転げていた。

その中の一人の社員が私に目配せして恐る恐る先ほどの新しい業者の方を指差した。
私のほうからは見えないので回りこみ指差す方を見ると斬新な目を射る広告が飛び込んできた。

「痛い!」と大きく書かれている、益々何の商材を売る業者なのか分からなくなった

音楽が聞こえてきた、時計を見ると開店の時間だ。
いつの間にか空気のようになったお店のテーマ曲がフロア中に充満していく。
私も曲に合わせてぜんまい仕掛けの人形のように通り一遍になっていった流れ作業に取り掛かる。

2,3枚クレープの生地を焼いた頃だった
突然、隣の業者から声がした。

「痛いとこないですか?」お客さんに声をかけている様だ。

やはり、単純に考えても複雑に考えても答えはひとつの解答にたどり着いた。
痛いところを治すのだ、きっとそうに違いない、と同時に疑問も涌きあがってきた。
お医者さんがスーパーの中で営業していいのか。

私はだんだんもやもやした気持ちになって居ても立ってもいられなくなった。
そうです私の血液型はA型です。
不明瞭な事に関しては見過ごし出来ない、後にとっておきたくない。

すぐに解決したい。
そんな衝動が私を突き動かし、隣の業者のもとへと向かわせました。
「こんにちは」「はじめまして」お互い社会人として普通に挨拶を終え。

一番聞きたかった事をたずねました。
「何を売っているのですか?」
通常、近くに第三者が居れば「おばさん、おかしいんじゃないか」とクレームのひとつも投げかけられる一言です。

私たち催事業者の商材は、確かに広範囲に亘っていてどのようなものを商材にしても商売は出来ますが一目見て分かるのが普通です。
正面には金色に光るコインのようなもの、その横には小さなぬいぐるみが山のように置かれています。

隣にはボールペンが整然と並べられ、キャッチフレーズが「痛いとこないですか?」では誰にも想像は出来ないのが当たり前です。

やじうま根性丸出しの私は相手の返事を待つより早く正面に宝石売り場のショーウインドーの如く光り輝くコインを指差して「これ何ですか?」と尋ねました。

私の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、いったい相手は何と答えるのか手に汗握る一瞬でした。
ところが、彼は得意げに、そのものの歴史から語り始めると思いきや、つまらなそうに私の輝く瞳を見つめもせず、つぶやきました。

「ああ、これね火を使わないお灸だよ、千年灸って知らないの」
無残にも私の好奇心は打ち砕かれおとなしく消滅しようとしていました。
いや待てまだある、再燃しかけた好奇心は、私の視線を隣にある小さなぬいぐるみとボールペンに走らせました。

これらの販売はお灸と何の関連性も無いように思えたからです。
しかし彼はまたも事も無げに私の手からぬいぐるみを取り上げ、手のひらでバウンドさせながら、「たくさん買ってくれた人にオマケであげるのよ、記念品」

私の心は自分の持ち場への帰還を早急に促していました。
世の中広いよ太郎鯉とはこの事かと噛み締めながら満たされぬままその場所を離れたのです。 
1時間もするとお年寄りを椅子に座らせ、後ろからマッサージする彼の姿が視界に入るようになりました。

私が一番興味を持った金のコインの裏を剥がして、器用にお年寄りの背中に貼り付けていきます。
私はこうして約10年間、催事の歴史で初めてお灸の催事に出会ったのです 

「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード15 「物産展ってなに?」 [ある女性の告白]

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 「物産展ってなに?」

デパートや大型スーパーマーケットでは、規模の大きい催事が一週間単位で組まれる事がよくある。
北海道、飛騨高山、京都沖縄など地方の名前がついた物産展だ。
物産展の前に地名をつけると、大体それらしい響きを持つ。

彼らの催事と一緒になると大変な事になる。まったく売れないのだ。
おまけに彼らは大きな売上をお店に落とすため特別扱い。
私達はいつものように地下食品売り場の中の小さな催事場。

彼らは上階の特別フロアすべてを使用する。
ところで「北海道物産展」は地元である道内で開催されたことはあるんだろうか?
素朴な疑問が湧き上がる。

札幌ラーメン、イクラ、毛ガニ、バター飴、たくさんの屋台が店内を埋め尽くす。
粋なハッピ姿、威勢のいい呼び込み。
うん、待てよ元気のいい呼び込みの中に、関西なまりの声がチラホラ。

よく聞かなければ気がつかないくらいの小さな声、北海道在住の関西人でもいるんだろうか?
メガネをかけ小太りの男。
ある時、偶然業者専用のエレベーターで一緒になった。

聞いてみると「ピチピチの大阪や、生まれも育ちも住んどるんもな。北海道出身なんてほとんどおらんわ」と、おっしゃる。
おっさんがピチピチなわけないのですが。
もうおわかりですね、このお店の北海道物産展は大半が北海道以外の人々によって構成されていたのです。
しかし、一応他業者の名誉のために付け加えますと、すべての物産関係の方々がそうというわけではありませんので念のため。

と云うわけで全国たくさんのデパート大手スーパーで定期的に催される、地名のついた物産展を見る楽しみが増えましたね。
お買い物に行った折たまたま物産展を見つけられましたならお気に入りの屋台店主にそれとなく出身地をお尋ねになったらいかがですか?

ここでちょっと思うのですが、そうなるとフランス展はフランス人かなってね。
外人って誰も同じ顔に見えるのは私だけでしょうか。

タグ:物産展

「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード14「小さなレコード屋の倒産」 [ある女性の告白]

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「小さなレコード屋の倒産」

彼は昔、商店街の一角で小さなレコード店を経営していた。 
ひと頃は新婚旅行のメッカとして栄えた町だったが、現在はご存知の通り新婚旅行に海外は当たり前の時代。
すっかり寂れた町並みは彼の歳のように老いを向えようとしていた。

いつものように、店の角に備え付けられた水道のホースを持ち上げ水撒きしていると。
「今日も暑くなりそうだね、おじさん
商工会青年部の連中が話しかけてきた。

「今年の夏祭、中止なんだって」と、問い返す。
「そうなんですよおじさん、ほらご存知のように去年が散々だったでしょ」
「費用もあまり無かったもんで、健康マラソンも削って、望んだんですがね」

そう昨年、町の衰退に歯止めをかけようと
商店街が中心になり色々な催しを盛り込んだ祭を開催したのだ。
次々と若者が離れていったこの町には実行委員の七割がお年寄りで占められていた。

おのずと企画段階からお年寄り向けの催しに集中する。
賞品付き詩吟及びカラオケ大会、別の会場では二日間に渡って競うトーナメント制の囲碁大会。
もちろん綿菓子やいか焼き、金魚すくいなどの屋台はありましたが、最後の締めが盆踊り。

これではどうしても盛り上がりに欠け、町内会も大赤字になったのだ。
町民からはブーイングの嵐。
出演料が安い売れない芸能人の話も出る事は出たのですが、手が届きそうな芸能人は、初めて聞くような名前ばかり。

みんなが知らない人が舞台に立っても盛り上がるとは思えず。
おまけに素人に毛が生えたような芸能人なら大金をドブに捨てるようなものだと若者達から意見があり、あえなく否決。

そんなわけで今年は、商店街の大売り出しだけの寂しい夏に決まった。
そんなおり、隣町に大型スーパーマーケット建設の話が決まり、来年の春にはオープン確定という嫌なニュースが飛び込んできた。
もちろん同業者もテナントで入るという。

しかも全国チェーンのCDショップだ。
勝ち目はない!
相撲で言えば横綱に挑む幕下だ。

彼にとって戦慄の恐怖のようなこのニュースは、さらに厄介な問題をも抱えていたのだ。
当然の事ながら隣町での出来事に彼の町は何の介入の権利も持たない。
地元の商店街なら出店反対運動も起こしただろうが関係のない町は、かやの外。

しかし車社会になってしまった現在に商業圏の特権は適用不可能。
三十分以内であれば、今や日常生活の行動範囲だ。
彼の店が影響を受けるのは火を見るよりも明らか。
季節は過ぎ、いよいよオープン当日がやって来た。

案の定、彼の息の根を止めるかのようにテレビCM、ラジオ、チラシと彼の周辺を襲いました。
人々も、角砂糖に群がる蟻のように新しいお店を目指しました。
さっぱり売れず従業員を一人抱えた彼の店は自転車操業の毎日です。
数ヶ月が過ぎた、ある日のこと資金繰りがつかず、給料の遅れていた従業員にレジのお金を持ち逃げされたのです。
それがきっかけとなりたくさんの在庫を抱えた挙句あえなく倒産。
さて彼の偉い所はここからです、悲しみに打ちひしがれ、膨大な在庫を目の前にし二、三日考え込んだ末出した結論が『催事』のラインに乗せての販売でした。

彼はたくさん在る在庫の中から三波春夫、鶴田浩二、村田英雄など昔の歌手のテープに絞って販売を始めたのです。
田舎のお店、特にお年寄りの多いお店を狙って販売攻勢をかけました。
だってお年寄りはCDよりもテープの方が慣れているのです。

それから五年後、ヒゲなど蓄えた彼は云う「在庫を生かすも殺すもあのときが勝負だったね」
一緒になった催事業者に昔話をしているようです。
彼から得る教訓がありますが、おわかりになりますか。

まずCD全盛時代CDを扱わなかった事。
だって行動範囲の広い若者は種類の豊富な専門店まで車で出かけるでしょう。
次にターゲットを田舎のお年寄りに絞った事この二点です。

彼はお客さんから、世間話のついでによく好みの歌手や曲の注文を受けるそうです。
これって予約じゃないですか?
彼とお客さんとのコミュニケーションは広がるばかり。

顧客ノートも増える一方です。
ますます彼の未来は明るそうですね。

「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード13「レインボーマン」 [ある女性の告白]

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「レインボーマン」


この仕事を始めて二年経った頃でした。

地方の大手スーパーで出会った業者の話です。

私は彼のことを親しみ込めてこう呼びますレインボーマン。


彼はいつも派手な虹色のスーツを、粋に?着こなし

値の張りそうな金のブレスレットや指輪を身につけ、アクセサリーの催事をしていました。

お互い仕事が終わり、私は宿泊先のホテルに戻ろうと車に向かっていると、彼とバッタリ会いました。


色黒で小柄な彼は、満面に笑みを浮かべ、その異様な姿に驚く私に、軽く片手を上げ「よっ、お疲れ」

右手にカニ、魚、豆腐、野菜の入った袋を下げています。まさにナベ料理の材料そのもの。

左手にはカセットコンロのボンベ。


もう間違いなく鍋料理セットです。

ちなみに彼も地元ではなく、どこかの宿泊施設に泊まっているはずなのですが。

「ホテルで自炊みたいな事が出来るの、怒られない?」と聞くと彼から驚くべき答えが返ってきました。


「いや、車の中でナベするのよ」笑いながら、さも当然そうに。

唖然としている私を無視するかのように、彼は続けます。

「僕の車、見るかい」私は素直にうなずくと彼の後をついていきました。



真っ黒いフィルムが貼られた車の窓、まったく中が見えません。

すると彼はスライド式のドアを開け「どうぞ、じっくりと中を御覧なさい」少しトーンの高い、女性のような彼の声は、驚きのあまり固まってしまった、私の体をさらに金縛り状態にしました。

そして目の前に現れた光景は想像を絶するものでした。


なんと車の中は駅前旅館そのもの。

テレビビデオ、ステレオはもとより車床には畳が敷かれ炬燵、ポット、まな板、包丁なども見えます。

およそ独身が生活するのに必要なものは、ほとんど揃えられていました。


「生活している・・・車の中で」私はつぶやき彼の顔をのぞき込みました。

「いやいや、ビックリしたかい」

「どうも、ホテルは堅苦しくて苦手なんだ、それにお金もかかるしね」

「僕はこう見えてもグルメなんだよ、ホテルの食事は冷凍ものがほとんどだろ、蟹だって水っぽくて食えたもんじゃない」


「今晩の材料だって、知り合いの漁師のおばちゃんから調達したもんさ」

もう私は、常連の催事業者のこだわりには脱帽です。 

彼の説明によると、この駐車場は閉店とともに閉鎖されるので移動するらしい。


今晩は、車を海岸に止めて月明かりに照らされた海を見ながら鍋をつつくという。

「ある時は、山の上から下界を見ながら、又ある時は川のせせらぎを聞きながら、まさに動く別荘だよ」

自慢げに話す彼の顔は、まるでピーターパンのように純真な表情をしています。


さらに話は留まることを知らず、洗濯はコインランドリー、風呂は銭湯など彼独特の生活様式があきらかになりました。

カニ鍋を肴に熱燗で一杯やりながらほろ酔い加減で海を見ている彼。

そんな姿を想像するにつけ、自然体になりきれる彼が羨ましいような気がしてきました。


私はホテルの部屋の窓辺に立ち「月明かりに照らされた海を見るなんて、彼ったら悟りでも開けそう」とぶつぶつ独り言をいいながら改めて振り返る。

そこはあまりにも整理され過ぎ殺伐とした一室。

彼をして「たった一度の人生さ、そんなに急いで駆け抜けると大切なものを見失うよ」と諭すような声が聞こえてきそう。


それほど人恋しい夜でした。



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード12「掛け軸を売り歩く男」 [ある女性の告白]

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「掛け軸を売り歩く男」


日本の家には床の間があります。

そこには何がありますか。

掛け軸がかかっているはずです。


なんとこの掛け軸を商材にしている人物がいるのです。

もちろん販売するのは掛け軸のみ。

各地のスーパーマーケットにつくと、彼は先端に切りこみをいれた自作の長い竿を取り出します。


何をするのかと見ているとその先端の切りこみに、フックを固定させ天井にねじ込んでいきます。

それもある一定の間隔を空けていくつも。

リズミカルに、しかも着実にこなしていく彼は今年六十五歳。


この掛け軸販売の仕事を天職と言ってはばかりません。

どう考えてもあまりにも特殊な商材、次々に並んで買うようなものでもないはず。

新築祝いや気持ちを新たにしたい正月など一年を通しても販売チャンスは少ないように思えます。


ところがどうして、マニアはどこの世界にもいるものです。

掛け軸好きはあなどれません。

一人で何本も買う人がいるのです。


金額はそれこそピンからキリまで。

このような商材は感性の商品という一面も持ち合わせているため、需要と供給さえかなえば値段はあってないようなもの。

芸術に無粋な値付けは必要ないでしょう。



先程の「掛け軸販売は天職だ」との名言を端的に表現した話があります。

その日私は、お客さんの数も少なく売上も伸びません、イライラしながらも、他業者の売上は気になるものです。

「どうですか、売れていますか?」彼は天井から吊り下げられた掛け軸たちに埋もれながら、ゆったりと椅子に座ったまま半眼開きで静かに答えます。


「ただいま売上ゼロ」川を渡る風のようにさわやかに。

彼からは、まったくといっていいほどイライラや焦りは感じられません。

不思議に思いさらに尋ねると。


「あなたは今、思っているでしょう」

「掛け軸は特殊すぎて販売対象になるのかと」まさにズバリを突かれて一瞬たじろぎました。

しかし次の一言で納得してしまいました。


彼はこう続けたのです。

「一週間も全く売れない日が過去に何度もあった」

「初めはイライラや焦りがある、でも人間って生き物はよく出来ているもんだな、だんだん順応していくんだよ」


「あせらず騒がず、慣れてしまえばわが世界、掛け軸好きな人が驚くほど買ってくれるかと思えば、売上ゼロのときもある、まさに人生そのものじゃないか」

「えっ、人生そのものって、どういう意味ですか」思わず聞きました。

「つまり、棺桶に片足を突っ込んだとき、わかるね・・棺桶、片足・・」と再度念を押すので「はいそのくらい分かります」と答えるとぐいっと、振り向き実際に首を後ろにねじり、「人生を振り返るわけだ、そうすると今まで不公平だなと、思われていたことが良い事と悪い事の収支がとれているのに気が付くわけだ」


「人は楽しかった事はすぐに忘れる、しかし苦しんだり恨んだり悲しんだ事は、絶対に忘れない」と言うと同時に、とうとう椅子から立ち上がり右手で拳までつくってしまった。

「そういうわけで人間は、皆不幸だらけだと勘違いするのだ、神は公平だよ」

「若いあなたには、まだ真似できない領分だよ、待つという事がどれほど自分自身の新たな発見につながるか」


私はカリスマ性さえ漂わせる彼の言葉に神妙にうなずきながら、すぐ傍らに吊り下げられた掛け軸に目をやると達磨大師の肖像画。

ワインでいえば熟成された年代物の味がする人物でした。



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード11「永遠の序奏」 [ある女性の告白]

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「永遠の序奏」


ここは日本有数の温泉地で、豊富な湯量が市内のあちこちに湧き出ている。

市内の温泉はそれぞれ泉質の異なる地域が八箇所あり、いろんな温泉を楽しむことができる。

私がこの地のスーパーマーケットで催事をする時、必ず思い出す父と娘の話があります。


ここのスーパーは、入り口を入ってすぐ一つ目の催事場があり、その奥に二つ目の催事場があります。

私は奥、彼は入り口で毎日熱い鉄板に囲まれ広島風お好み焼きの催事をしています。

初めは挨拶程度の会話でしたが、その日はお互い売れ行きが悪く暇を持て余していました。


感じの悪い催事担当者の話やわがままなお客さんの愚痴などひとしきり話した後「あんた、子供さんいるの」と突然彼が聞くのです。

「ええ、二人いますよ」と答えると「子供って難しいよね」と十年前の出来事を話し始めたのです。

娘さんが多感な年頃の十四歳のある日突然父親である彼に云いました。


「お好み焼きの仕事はいいけど、お願いだから移動するのは止めて!」涙ながらに訴える娘に、彼は何かあったなと直感しました。

 その理由を問いただす父、頑として話さない娘。

彼は仕方なく娘が風呂に入っている間、娘の友達に電話した。


その答えは「いじめ」、娘はいじめられていたのです。

「何のために?」「何が原因で?」彼はまるで警察の取り調べ官のように娘の友達に語気を荒げ追求しました。

大切な娘の緊急事態です、頭の中では活火山のマグマがいつ噴き出そうかと出口を伺っています。


しかし友達も友情という鎖に巻かれているのか、貝のように口を閉ざしています。

それは血のつながっている者とつながっていない者の差でしょうか。

あくまでも食い下がる彼。


やがて娘の友達もしぶしぶ答えました。

「真弓のお父さん、いつも三日間で居なくなる、まるでフーテンの寅さんと一緒や」とクラスの子がいじめているというのです。「私は愕然としました」

職業の差別はいけない事だよ、などと一般論を十四歳の娘に説いてどうなります」彼は挑むような目で私に話します。



「現実にまわりの状況は変わりません」少し涙ぐみながら。

「いじめ」も多様化していますが、いずれも相手の心に深い傷を与える事に違いはありません。

そしていつの時代も小さな弱い人権が危機にさらされるのです。


このような場合、彼が学校に乗り込み「いじめ」の犯人探しをしたとて何の解決にもなりません。

むしろますます陰湿化して「いじめ」が酷くなるでしょう。

「子供を生き甲斐にこれまで一生懸命にがんばってきました」


「娘がかわいそうで、自分が情けなくてどうしたらいいか分からず、恥ずかしいけどその夜、男泣きしてしまいました」

静かに彼は煙草に火をつけると、ため息交じりに煙を吐き出しながら

「思い切り泣いたら何かサッパリしましてね、娘を呼んで言いました」


「お父さんが移動してお好み焼きを焼くのはその方が儲かるからや、全部お前のためだよ」「おまえを幸せにするために、がんばっているんだ、でもどうしてもお前が嫌なら、お父さんお好み焼きやめる」

父と娘の会話はさらに続きます。

「大切なお前を悲しませるなら、お父さん、がんばる意味ないからな」


娘はしばらく泣いていました。

そして「私ってそんなに大切なの」

「いつも忙しい忙しいって構ってくれなかったのに…」


それから一週間後。

娘は父に言いました。

「お父さん、私日曜日には手伝うから、やめるなんて言わないで」


娘は、どのように解決したのか。

それとも我慢してきたのか。

彼には知るよしもありませんでした。


なぜならあれ以来「いじめ」について一言も父親に話す事はなかったのですから。

それから十年の月日は、娘を気弱な女の子から、父を誇りに思うしっかりした女性に成長させました。

まるでドラマのような話ですが、催事業と言う仕事は多かれ少なかれ、職業に対する偏見を生む素地になっているようです。


私も娘を持つ身として不覚にも、もらい泣きしてしまいました



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード10「哀愁のフェリー」 [ある女性の告白]

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「哀愁のフェリー」


その地が不幸にも火砕流に見舞われたのはいつ頃だったのか。

彼と初めてあったのは、海が鉛色に変化し、波が荒々しく防波堤に牙を剥き始めた頃でした。

私は家に残した子供達の事を思いながら夕方のフェリーに乗りました。


だんだん離れていく陸地にホタルのような小さな明かりが灯りはじめ、船の汽笛は私を不安に駆り立てました。

四泊五日の泊まりの仕事。

母に子供の面倒を見てもらっての、後ろ髪引かれる遠出になりました。


しかし私の心配をよそに船は漆黒の海をすべるように進んでいきます。

冷たい風が容赦なく私の頬を切りつけていきます。

やがて小さな灯りも消え、あたり一面黒一色に塗られました。


ただ波の音だけが、ちゃぷん、ちゃぷんと聞こえてきます。

デッキから海を見下ろすと深く沈んだ自分が、おいで、おいでしています。

「今、静かに沈んだら誰も気づかないな」


思わず引き込まれそうになったとき

「お客さん、今夜は風が強いから急に船が傾く事があるんです、危ないですよ」

乗務員の方から注意され我に返った。


かじかんだ手のひらに、先程自販機で買った缶コーヒーが、暖たたかく、心まで癒されるようだった。

約一時間足らずで静かに港に着いた。

早速仕度をして車に乗り込む。


乗務員が一台一台車止めを外していく。

船のハッチが開き、係員の指示で車が出ていく。

次々と吐き出されていく車は、仕事用の車がほとんど。


長距離トラック、営業所の名前がペイントされたバン。

今の季節、観光目的の車は皆無に等しいのです。

何だか私には、全部の車が暗い闇に吸い込まれていくようで、心細く泣きそうな気持ちになった。


薄暗い道路を四十分も走ると急に明かりが増えてくる。

唯一の商店街を右折し、二つ目の筋を左折すると目的のスーパーマーケットがその姿をあらわします。

遠出の仕事の時は前日の夜に店づくりをするのです。


お客さんの買い物の邪魔にならないように設置するため、どうしても閉店間際になる。

設置も終わり、警備員に挨拶し、空になった車に乗り込むと全身の疲労感がピークに達する。

カーラジオのスイッチを入れ、お店の駐車場から国道へとハンドルを切っていく。


コンビニに立ち寄り今晩の食事を調達する。

今夜は小さな缶ビールでも飲もうか、弁当とは別に入れられた袋をつかみ車へと踵を返す。

しばらくするとホテルの看板が目に飛び込んでくる。


今夜からの定宿だ。

お風呂に入り先程のコンビニ弁当を食べる

「あっ」と悔やんでしまった。


電子レンジで温めるのを忘れ、食べ終えてしまったのだ。

歯磨きをするうちに上と下のまぶたが仲良くなりそうだ。バタンキュー、ベッドに倒れこむ。

私は、波ひとつない真っ青な海でボートを漕いでいる。


どこまでも青い空、気持ちのいい風が吹き抜け、目の前のきれいな緑色の島に私を運んでいく。

浜辺に打ち寄せるさざなみが、心地よく耳をくすぐる。

椰子の木に原色の鳥が止まり、歌うようにさえずっている。


次第にさえずりは大きくなり、最後には電話のベルの音に取って代わった。

「オハヨウゴザイマス、ゴヨテイノオジカンデス」

機械的な声が受話器から聞こえ、催事の一日がスタートした。


そのお店は南と北に入り口が二ヶ所あり入ってすぐの所が南北の催事場になっている。

どうも先程からギターとは少し音色の違う音が聞こえてくる。

「スーパーの中で何故こんな音が?」


その音源を知りたくて、販売のほうも一段落した昼過ぎ、音色のする方向へ近寄っていった。

そこで私が見たものは、頭をバンダナで巻き沖縄独特の弦楽器である三線をひきながら沖縄特産品を販売している彼の姿でした。

楽器を用いての販売は私にとって新鮮に移りました


「こんな地方色豊かな催事もあるんだな」と。

しみじみした気持ちになりました。

初めて会う彼に戸惑いながらも、しばし話をする。


何でも、父親が沖縄関係の特産品を販売していてそれを彼が受け継いだようだ。

つまり沖縄特産店の二代目という事だろう。

しかし彼のお店が入っているビルの中は人通りもまばらで売上は落ちていくばかり。


彼は考えた「待っていてもお客さんは来てくれない、だったらこちらから出かけていくか」

待ちの商売から、出かけていく攻めの商売に移行させたのだ。

確かにビルの中での固定販売よりも集客力のある、いろいろなスーパーの中で販売する方が売れるのはあきらかだ。


いずれ沖縄の文化を広めた功労者として名誉市民になるかも。



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード9「危険な商品を扱う人達」 [ある女性の告白]

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 「危険な商品を扱う人達」


店内に一歩足を踏み入れると異様な光景に出会う。

大木をチェーンソーで切り倒すような音。

絹を引き裂く音。発砲スチロールをガラスに擦りつけるような音。

擬音語のシャワーが店内に降り注ぐ。


催事業「刃物屋」の出番だ。

彼らのまわりには危険地帯が広がる。

ナイフ、のこぎり、ハサミ、刺身、出刃、菜切り等の包丁類。

一本千円から万円単位まで刃物のオンパレード。


私のような食品催事とは競合しないため彼らとはよく一緒になる。

「丸ちゃん」私は呼びかけた。


刃物屋さんの彼は、TVで有名なプロゴルファーの丸山さんにそっくりなんです。

野球帽を被り恥ずかしそうにたたずむ彼の左手には釜。

並んで順番を待っているお客さんの手には、出刃包丁、菜切り包丁、剪定鋏、鍬などの刃物類が、まるで農民一揆の前夜さながら鈍い光を放っています。

まさに異様な光景です。


一番利益率のいい砥ぎに群がるお客の列をゆっくりと眺めながら笑みを浮かべる彼の姿を見るのは久しぶりでした。

彼らの一番の商売になる地域は田舎の町。

都会では使い捨ての時代です。


先日まで都会での仕事だったようで売り上げが悪く疲れ果てていました。

この催事の特徴は、ふたつの販売方法を持っている点です。

もちろん商品を売って利益を得ているのだが真のねらいは別にあります。


彼らは一定期間職人技の修行をして商品販売だけじゃなく別口の収入の道を開く砥ぎ師である。

いわゆる技術を販売しているのです。

お客さんに切れ味が悪くなった包丁や鎌、ナイフ、ハサミなど持ちこんでもらい砥ぐ事によって鋭い切れ味を甦らせる。

一本の包丁を砥ぐと三百円から七百円鎌や大型の刃物になるとさらに高いそうだ。


持ち込まれた物によって、多少の時間差はあるが大体五分から十分程度で仕上がる。

一日平均三十本から砥ぐらしい、しかもほぼ百パーセントが利益。

刃物販売とあわせてかなりおいしい商材である事は間違いないだろう。

ただしかなり重労働であるそうだ。



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード8「バッグ屋さん」 [ある女性の告白]

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「バッグ屋さん」


その夫婦は二十五年前南の地方から夜逃げ同然でこの地に来たらしい。

いつ頃この催事を始めたのか聞いたことはない。

彼ら夫婦が扱う商材は、千円均一のバック、老眼鏡、指輪などアクセサリー全般に及ぶ。

奥さんはとても商売上手でテキパキ接客しているが、問題は旦那の方である。


人見知りするうえどうも商売が好きではないらしいのだ。

誠実な人柄ながらぶっきらぼうで、お世辞が大嫌いときている。

私がご夫婦に出会ったのは、今から八年ほど前の「催事業」を始めて間もない頃だった。


催事業者の間で、小さな店だけど売れるという評判を聞きつけ、片道二時間かけて来た。

山の中の小さなスーパーマーケットは、小さいゆえ店内に催事のスペースをとる事が不可能だった。

お店の前に大きなテントを張りそこを催事業者に提供していた。


「おはよう、あんた初めて見る顔だね」

「ここは空気も良いし、水も美味しいよ」

真っ白い髪をオールバックに撫で付けた、六十歳ぐらいのご主人が話しかけてきた。

どうもアウトドア派らしく、のんびりした自然が好きなようだ。


「初めまして、二年ほど前から催事を始めました、このお店は初めてなので宜しくお願いします」私が学生時代の先輩にするようにかしこまって挨拶をすると。

右手でまあまあと制するように「どうも都会のスーパーは苦手でね、売上、売上とプレッシャーかけるんだよ」

確かに田舎のスーパーは、牧歌的でうるさい事はほとんど言わなかった。


この二年店内催事専門だった私には辛かった。

山の天気は変わりやすく、朝方晴れていた空はモクモクと黒い雲に覆われ始めた。

「ひと雨きそうね」


奥さんがバッグをテントの中央に避難させながらつぶやいた。

山の向こうは青空なのにと、恨めしそうに黒雲を見上げているとポツポツ雨が落ち始め、あっという間にスコールのように落ちてきた。

おまけに風も出て、吹き込んでくる雨は、クレープを焼く手を濡らした。


「ハイ、お嬢さんこれを使ってテントの支柱にガムテープで貼り付けなさい」

ご主人から渡されたのはダンボールをばらしたものだった。

言われた通りに貼ると、それは雨を防いでくれた。


さり気ないやさしさが嬉しかった。

それとともに「お嬢さん」と呼んでくれたことも嬉しかった、もうおばさんなのに。

形振り構わず、化粧もそこそこがむしゃらに走ってきた二年間。


そうだ、この辺で「女」を取り戻そう、いつまでも心は「お嬢さん」でいよう。

雨も上がりお客さんの数も増えてくる。

隣のバッグ屋さんにお客さんが入ってきた。


おじさんこのバック本革なの?」

お客が尋ねる。

「あのねお客さん、千円で本革があるわけないでしょ」と万事こんな調子だ。


そばでヒヤヒヤしながら奥さんが見つめる。案の定ムッとしたお客さんは、品物を置き帰ろうとする。

すると奥さんが間髪いれず

「お客様失礼しました、合皮ですがしっかりした作りで、雨にも強いしデザインもすてきです」


「ちょっとした小旅行にも重宝しますよ、おまけにこのお値段です」

「お値打ちだと思いますが」

と素晴らしいフォローを入れる。


お客さんは途端に気分を良くしたのか

「じゃあ頂こうかしら」

すんなり一件落着である。


しばらくして「本当にうちの人の性格は、何十年たっても変わらないんだから」少し苦笑いしながらつぶやく。

どうもあまり困った様子ではない。

そこには夫婦にしかわからない何か通じるものがあるんだろう。


「よく奥さんの一言でお客さんの機嫌が直りましたね」私は尋ねた。

「だって品物を手に取り質問するお客さんは、基本的にその品物が気に入っているわけでしょ、とにかく欲しい」

「納得した上で、買うきっかけを売る側に求めているのよ」


「簡単な事よ、私はただお客さんの購買欲に対して、それは正しいですよ、と導いただけですもの」当然そうに答える。

これは商いの基本だなと妙に感心してしまった。

一事が万事こんな夫婦善哉のようなお二人。長い間の商いで磨かれてきた知恵はこれからも輝きを増していくでしょう。



「もうハローワークの順番待ちはおやめなさい」エピソード7「鉄の女」 [ある女性の告白]

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それから夫と私別々に各々のお店で商売するようになり約十年が経ちました。

こんな私達のように『催事業者』を見ると実に様々なドラマがあります。

これからお話する事は、今まで私が出会ってきた人達の一部分で、特別に変わった人達というわけではありません。

多少違う所といえば困難に出会った時、人に頼らず自らが生み出した、独自の商法により難題を乗り越えてきたという事ぐらいでしょうか。

ほらまわりを見渡してごらんなさい、身近に感じられる話ばかりですよ。


 「鉄の女」


初めにひとりの女性を取り上げましょう。

化粧品を『催事』のラインに乗せて販売している彼女。

開店二時間前にお店に着くと会議室に直行です。


たくさんの化粧品を並べるためのテーブルを借りるためです。

その重い会議用のテーブルは、彼女の細い腕の先で意地悪そうに、これでもかとばかりにぶら下がっています。

一台、二台とまだ電気の入っていないエスカレーターを歩いて上り下りします。


汗と苦痛に歪んだ顔からは、しかし毅然とした瞳の輝きが感じ取れます。

それもそのはず彼女は、ひとりで一家を支えているのです。

彼女の販売方法はお店に行く前日。


一度以上買ってくれた、お客さんのリストをもとに明日いくことを電話で伝えます。

もちろん明日から仕事をするお店のエリア内のお客さんに対してです。

これだけで売上の三分の一は確保するそうです。


他にも細かい固定客獲得の方法があるのですがあえて申しません。

彼女が一歩一歩築き上げてきたものですからね。

その代わり彼女が、この道に入るいきさつが興味深いのでそちらのほうをお話しましょう。


それにはまず彼女のご主人の話をしなければいけないでしょう。

それはそれはやさしく真面目なご主人なのですが見た目が正反対で恐い。

とにかく強面なのです、どこかの暴力団幹部クラスの顔をしています。


別にそのせいではないのでしょうが、今ひとつ仕事が上手くいきません。

いろいろと事業を立ち上げますが、生活に結びつきません。

自分でも歯痒くなり、ついついお酒に溺れてしまう。


やさしい気持ちの裏返し、良い人にありがちなパターンですね。

その内とうとう大酒飲みのフリーターのようになってしまいました。

もちろん愛するご主人です。



彼女も何かと応援もしてきましたが、自暴自棄になり、悪いほうへ転げるばかりです。

ご主人の気持ちもわかるのですが、二人の子供もいるし、なんといっても一家の生活があります。

ある年の暮れも押し迫った頃、やけ酒がたたったのか肝臓をやられ入院です。


もう彼女はキレル寸前です、離婚を決意し病院に向かいました。

病室のドアを開けると同時に「智子、スマン」の一言。

ガックリとうな垂れ、哀れな姿をした夫を見た瞬間。


愛しさと情けなさが交錯し、彼女は全身に電気が走るような衝撃を感じたと私に語ってくれました。

今夫を見捨てることは出来ない、そう決心したとき、彼女は男になりました。

そして大きな声で叫んだのです。


「もう二人育てるのも三人育てるのも変わらない、私がみんな養ってあげる貴方は家事をして下さい!」

それ以来約二十年子供を大学まで出し、立派に育てあげ、旅立たせ家計を支えてきた彼女。

現在は、羨ましいほど幸せで静かな日々を過ごしています。


ちなみにご主人の得意料理は丼ものと刺身定食とのことです。

近年、女性の進出で男性が家庭の仕事をする事にそう抵抗はありませんが、ご近所の目など、当時は大変だった事でしょう。

お二人の子供さんも独立されご主人とふたりきりになった今、何を思うのでしょうか。



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